最近、「大豆ミート」の製品を買いあさっているAID研究センター長です。
今回AgriBus-Webでは新たな高低差マップを作成できるようになりました。それに合わせて、AgriBus-Webのデータの組み合わせから「何が読み取れる」について考えてみたいと思います。
医師の診断フローと作物診断フロー
AgriBus-Webのデータはいろいろな活用法が考えられますが、現実的な場面を想定して「作物診断」に活用する考え方について整理したいと思います。
「作物診断」とは作物の状態を把握する手法ですが、今回は作物にトラブルが発生している場合に原因を診断して対策を講じるまでのフローとして定義したいと思います。
まず「作物診断のフロー」を「医師の診断フロー」と比較してみたいと思います。医師の診断フローでは、レントゲンなどの「スクリーニング検査」を行ってから、問題のある患者を特定し「精密検査」によって病名などを確定してから治療を開始します。
一方、作物診断でも考え方は同じです。農業の場合「作物の生育不良」が「作物診断を行うきっかけ」となることが多く、スクリーニング検査としてリモセン画像や圃場観察によって生育不良エリアを特定し、土壌分析などの精密検査を実施してトラブルの要因を確定して対策を講じることになります。
なお図で、赤字で書かれている項目はAgriBus-Webのデータが利用可能で以下に詳細を述べてみたいと思います。
AgriBus-Webで提供されるデータ
現在AgriBus-Webで提供しているデータは以下のとおりです。
1.走行軌跡データ(位置・速度)
走行軌跡データはトラクタがどういう経路で走行したかという走行軌跡を示すデータです。さらにAgriBus-Webでは作業時の走行速度も色分けで表示することができます。
2.高低差マップ
高低差マップはGNSSの高度データをもとに作成され、圃場内の凹凸や傾斜を「見える化」したマップです。大規模畑作地帯では圃場の地形を大きく修正しないことが多く、傾斜に沿った「水の動き」を推察することができます。
3.土壌水分(推定値)
土壌水分は降雨量から土壌pF値を推定し、その値をもとに「過湿」・「湿潤」・「乾燥」・「過乾」の4区分で表示されます。土壌の水分状態から「湿害」や「干ばつ」の発生の可能性を推察する場合に用いることができます。
また「過湿」の条件では「練り返し」による「土壌構造の悪化」を招きやすいことから、降雨後に機械作業を行う場合の可否を判断する目安として用いることができます。
4.有効積算温度
有効積算温度は任意の期間の日平均気温を積算した値です。また積算の対象によっては影響を受ける最低温度を示す「下限温度」も設定可能となっています。気温は作物の生育に大きく影響することから、気象データから生育の良否を判断する場合に多く用いられます。
また作物によっては収穫時期の目安となる積算温度が設定されており、収穫作業の作業計画をたてる場合に用いることができます。
5.衛星画像データ(スペースアグリ社の生育マップなど)
現在AgriBus-Webでは、衛星画像データとしてスペースアグリ社の生育マップを表示することが可能です。このマップから生育不良エリアを特定することができます。
AgriBus-Webのデータから見えること
AgriBus-Webのデータを組み合わせることで、生育不良の原因についての仮説を絞り込むことができます。
まずはスクリーニング検査として衛星画像データから生育不良エリアを特定します。
次に表に示したように、生育エリアの形状が「直線的」か「不定形」かによって場合分けを行い、さらに「直線的」である場合には「走行軌跡データ」と照らし合わせて「走行軌跡」と合っているどうかを判断して、要因を絞り込んでいきます。一方「不定形」の場合でも「連続的」か「モザイク状」によって要因を絞り込みます。
最終的には圃場観察を行った上で、これらの要因を作業記録や「土壌水分」や「有効積算温度」などの気象データと突き合わせて、生育不良の原因に関するいくつか仮説を立てることができます。なお前作での作業などの影響もあることから、作業記録は過去数年にわたったデータが利用できることで、仮説の幅が広がります。
さらに生育不良の原因を確定するめためには「精密検査」が必要となります。しかしAgribus-Webのデータから得られたいくつかの仮説から実施すべき「精密検査」の内容が明確となり、生育不良への対応が効率的に行えるようになります。
一例としてスペースアグリ社の生育マップと高低差マップを照らし合わせた事例を紹介します。この2つのマップを見比べる、生育マップで生育が劣っているエリア(図中赤の部分)は高低差マップの高いエリア、同じく生育がよい部分(図中緑の部分)は低いエリアとなっています。
これらのことから、一つの仮説として「生育が劣っているエリアでは水分不足(干ばつ)が発生した」ということが考えられます。
このためこの仮説を検証するための「精密検査」としては、AgriBus-Webの「土壌水分」のデータを照会するとともに、圃場において実際に土壌を採取して「土壌の乾湿」をする確認する作業となります。
当社では、今後「作物診断」に用いることができるデータを充実させるためにさらなる開発を進めていきたいと考えています。